燈蓮寺伽藍堂 -RISING FALCON-

神社やら、旅行やら、過去の事やら。

稲荷山⑮:春繁、そして小狐丸ゆかりの地・劔石の御劔社(長者社神蹟)

関西巡り記事一覧
社祠巡り記事一覧
稲荷山記事一覧記事一覧
 
 

はじめに

今回は春繁と劔石(つるぎいし)*1について。
今までの稲荷山の記事はこちら
 
マップは以下の通り。番号が振ってあるのは、お塚の台座の番号だ。
(※画像が粗い場合は、クリックした先で「オリジナルサイズを表示」を選ぶと大きいサイズが表示される。)

 

春繁


一ノ峰から階段を降りてくると、春繁のエリアが見えてくる。ここは玉垣の内側にしかお塚が存在しない、かなり小規模なエリアだ。
 

春繁社


春繁社は春繁大神を祀っている。また、他にも幾つかのお塚がその周囲に建てられている。
 

繁春大神


因みに、繁春大神という春繁大神と良く似た名前のお塚も祀られているので少しややこしい。
 

【春繁】
御祭神:春繁大神、繁春大神など
 

 

劔石


春繁社を後にして道なりに進むと、次は劔石のエリアに出る。
上中下社の神蹟に比べ、森の中にお塚が静かに鎮座している感じの場所だ。
 

長者社神蹟

御劔社




長者社神蹟とされている場所には御劔社が建っている。
ここに祀られているのは賀茂玉依姫命。稲荷山に賀茂の神が祀られるのは不思議な感じがするけど、伏見稲荷を創建した秦伊呂具は賀茂建角身命*2後裔である賀茂久治良の末子という伝承*3もあるから、その辺りの関係なのかもれしない。
 

劔石(雷石)


社殿の後ろには大岩がある。茶店に貼ってある由緒書によれば、名を劔石といい、また別名を雷石というらしい。異形の僧が雷を岩に縛りつけたという伝説があるんだとか。
 

焼刃の水(宗近の井戸)



また御劔社の横には、「焼刃の水」がある。ここは刀工の三条宗近が小狐丸の焼刃の際に、ここの霊水を用いたことに由来する。そのため、「宗近の井戸」とも呼ばれるらしい。
折角なので刀剣好きな人は行ってみたらどうか。
 

三劔家


劔石の茶店は三劔家という名前だ。ここでは「いっぷくセット」という、煎茶・煎餅・玉露羊羹がセットになったメニューを頂いた。
 
最初にここを通りかかった時、店から野球中継が流れているのが聞こえた。それでふと、北尾鐐之助という新聞記者で作家の人が書いた、『京都散歩』という本の内容が頭をよぎった。
 

 一ノ峯の上ノ社から、再び四ツ辻の方へ下りて行くと、茶店のラヂオが、しきりに野球の放送をしていた。婆さんが一人いるのみで、誰れもいない茶店にやすんで、……お婆さんは野球が分かるのか……と聞いてみると、……私は何も分らぬが、ラヂオを出して置くと、よくお客さんがやすんでくりゃはります……とこたえた。
 ……ピッチャ第四球、なげました。遠い球、ボール!、カウントはワン、スリー……
 ラヂオの声はお山の石塚につき当って、朗々と谷底から聞える「般若心経」に響いて行った。

 
北尾鐐之助『近畿景観 第三編 京都散歩』(蘭書房、1954年)363頁より

 
 
上記の文章に似た情景だった(流石に谷底から般若心経は聞こえなかったけど)ので、この本が書かれた昭和の頃と令和の今がまるで重なり合ったような、なんとも不思議な気分になった。
 

火防寅


「火防寅」とだけ刻まれたお塚。どういった神様なのか全く詳細は不明だけど、いかにも火除けの御神徳がありそうな神名だ。
読み方は「ひぶせとら」とか「かぼういん」とか、そんなところだろうか。
 

米吉大明神・絹川大明神・清姫大明神・園好大明神


このお塚は四柱の神名が刻まれている。
例によって、清姫が祀られているので参拝した。
 

白米大神・白龍大


一ノ峰の記事でも紹介した「白米」を冠する神名のお塚は、ここ劔石にもある。
「白米」と「白龍」の組み合わせ、よく考えると不思議な組み合わせだ。
 

方除大神ほか六柱と白長大神ほか五柱


 

方除大神・島龍大神・末廣大神・御嶽大神・熊鷹大神・白龍大神・髙丸大神


このお塚は七柱と、結構多くの神名が刻まれている(後述するお塚に比べれば少ないけど)。
方除大神とは聞き慣れない神名だけど、方位神を祀っているのだろうか。
龍大神というのも聞き慣れない。
末廣大神と熊鷹大神は、上社と熊鷹社にそれぞれ祀られている。
御嶽大神は、御嶽教*4関連だったりするんだろうか。
 

白長大神・山神大神・信勝大神・星大神・源九郎大神・豆八大神


こちらも六柱とそれなりに多く神名が刻まれている。
白長大神や豆八大神などは、まったく聞いたことのない神名だ。
神大神はその名前からして山の神様なんだろう。
「信勝」と聞くと織田信勝を思い出すけど、この信勝大神が織田信勝と関係あったりするのかな?(まあ、関係ない可能性が大きい気はするけど)。
星大神はその名前の通りなら星の神様だろうか。星の神というと星神香香背男*5が思い浮かぶけど、こちらも関係は不明。
源九郎大神は二ノ峰の記事でも書いたように、源義経を助けたことで源九郎の名を貰ったとされる源九郎狐のことかもしれない。
 

余談(玉垣の修復について)


ところでこの方除大神や白長大神の祀られるお塚台の玉垣は、老朽化して崩れかけているらしい。ここのお塚を信奉している人で、その修復費用を賛助してくれる人が居るらしいので、関係者の人は早く連絡した方が良いと思う(居れば、だけど)。
 

対馬大明神



ここは対馬を神名に冠したお塚だ。対馬の神社というと和多都美神社*6や海神神社*7の印象があるけど、詳細は分からない。
 

藥水力大神ほか十四柱




最後に紹介するのはこのお塚。見ての通り、十五柱もの神名が刻まれている。
 

見づらいので図にすると、上記のような感じになる。
藥水力、藥食力、頭痛力、長寿延命、安産力、萬病力など、健康などに関する神名が多いのが特徴的だ。
また開運期米大神は、「期米」が米の取引関係の単語らしいので、そういった関連の願いを込めた神名なのだろう。
 

さて、そんな神名の中でも一番インパクトがあるのはこの「陸海軍力大神」だろう。なんたって陸海軍だ。このお塚の建立年は分からないけど、まあ恐らく戦前から建っているんだと思う(戦後だったら空軍も追加されてそうだ)。
 

【劔石】
御祭神:賀茂玉依姫命、火防寅、清姫大明神、陸海軍力大神など
 

 
今回は以上。次回は薬力・傘杉・春日峠の3エリアについて。
 

脚注

*1:「劔」は「剣」の異体字

*2:下鴨神社の御祭神。

*3:伏見稲荷大社社家大西氏系図による。伏見稲荷大社ホームページの「沿革」の「 伊奈利社ご鎮座説話 」の項目を参照。

*4:教派神道の一派。御嶽山を重視しており、御嶽大神国常立尊大己貴命少彦名命の総称)を祀る。

*5:別名は天津甕星葦原中国平定に従わなかった神。

*6:延喜式内社論社。彦火々出見尊と豊玉姫命を祀る。

*7:対馬国一之宮で延喜式内社論社。豊玉媛命を祀る。