燈蓮寺伽藍堂 -RISING FALCON-

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稲荷山その31:茨谷にて雀聖・阿佐田哲也大神などに参拝

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<2022年9月 記事内容改訂>

はじめに

今回は「茨谷」というエリアについて。
ここは結構エリアが広い。

今までの稲荷山の記事はこちら

マップは以下の通り。番号が振ってあるのは、お塚の台座の番号だ。
(※画像が粗い場合は、クリックした先で「オリジナルサイズを表示」を選ぶと大きいサイズが表示される。)

茨谷


前回の記事で書いたあらきエリアの一番端から直結しているのが茨谷(いばらだに)エリアだ。
本来は荒木神社HP*1や『稲荷詮索誌』*2を見る限りあらきエリアも広義の茨谷なのだが、伏見稲荷大社による昭和41年(1966年)のお塚調査記録『続お山のお塚』では分けて書かれているので、ひとまず後者に従うことにする*3

先述の『続お山のお塚』の茨谷の塚台配置図と現状の塚台の配置では、エリアの上1/4程度(後述の阿佐田哲也大神の鎮座する辺り一帯)の様子が全く異なっている。
詳しい方にお話を伺ったところ、暫く前に大規模な工事をしたとのこと。
この変貌した一帯の稲荷山裏参道を挟んだ向かい側が『続お山のお塚』の頃には無かった拡張エリアになっているので、かつてここにあったお塚はそちらに遷された可能性もある。

これは稲荷山のお塚全般に言えることだが、目当てのお塚がある人は、倒壊したり、場所を遷されたり、完全に撤去される可能性があるので、可能な限り早いうちに参拝する方が良いと思われる。



ところで、この辺りでは蛙の像が其処彼処に置かれている。
これは(現在については不明だが)かつてこの茨谷には蛙が多数生息しており、それに由来するものであるらしい。

末廣大神 外2柱



このエリアの南端(冒頭のマップ右上)には、前回の記事で最後に掲載した水玉大神の近くの竹で出来た鳥居の先から行くか(上掲写真1枚目)、或いは裏参道側の石鳥居を進んで行くと辿り着く(上掲写真2枚目)。


ここには中央に末廣大神、右に稲荷大神、左に權大夫大神と刻まれた3基のお塚が祀られている。

末廣大神


末廣大神は、一ノ峰上社神蹟の御祭神で、大宮能売大神のことを指すとされている。

權大夫大神


權大夫大神(=権太夫大神)は、荒神峰田中社神蹟に祀られる神だ。

金森神社



末廣大神の近くには、金森神社が建っている。
ここについては、残念ながら由緒書等が無かったので御祭神は不明。

瓢箪山戸川大神 外数柱


金森神社のすぐ近くには、瓢箪山戸川大神など3つのお塚が祀られている。
「金森組」という団体が建立したお塚のようで、もしかすると金森神社とも関連があるのかもしれない。

中央のお塚は「瓢箪山」の「瓢箪」の部分を文字ではなく形で表しているのが特徴的だ。
戸川大神の下部には2柱の神名が刻まれているが、よく見えなかった。

左のお塚は三洲豊川大神とある。
三洲とは三河国なので、愛知県豊川市の円福山妙厳寺豊川稲荷)の鎮守である豊川吒枳尼真天を祀るお塚だろう。

右のお塚は神名がよく見えなかったため不明。

末廣神社


末廣大神や金森神社のある辺りから階段を下ってくると、ちょうど階段下の脇に鎮座するのが末廣神社だ。
御祭神を記した由緒書等は無いが、名前からして末廣大神を祀るものと思われる。
もしかすると位置的に、末廣大神のお塚まで上れない人でも参拝できるように建立されているのかもしれない。

七祠大明神


このお塚には七祠大明神が祀られている。
碑文を読む限り、商買繁栄と子孫長冝の御利益があるらしい。
商買繁栄は商売繁盛と同義だろう。
子孫長冝は「冝」が「宜」の異体字なので、読みは「子孫長く宜し」(しそんながくよろし)で子孫繁栄と同義だろうか。

因みに「七祠」という神名のお塚は前の記事で書いたあらきエリアの豊川吒枳尼真天の境内にも祀られていた。
七祠大明神との関連は不明ながら、上記記事でも書いたとおり『伏見稲荷大社 大祓御神徳記』のお塚一覧には「七祠の滝」という項目が掲載されている*5
なお七祠滝という滝のその後は詳細不明だが、もしかすると早いうちに廃れたのかもしれない。

阿佐田哲也大神



七祠大明神のすぐ傍にあるのは、『麻雀放浪記』等で有名な雀聖・阿佐田哲也を祀るお塚だ。
ここは比較的新しいお塚で、日本プロ麻雀連盟により平成8年(1996年)に建立された*6
毎年春に阿佐田哲也大神祭が執り行われ、祭典後は記念の麻雀大会が開かれている。

大日本大道教


稲荷山は神社だけではなく神仏習合のお塚が多数ある場所だが、それに留まらずなんと道教の施設までもが存在している。
この丸みを帯びた門のようなものは鳥居だろうか。
ここには4体の像が祀られている。


自販機横にあるのは太上老君の像だ。
太上老君道教の始祖とされる思想家の老子を神格化したもので、後述の元始天尊の化身ともされる*7


建物正面にある像は、向かって右から道德天尊、娘娘神、元始天尊となっている。
道德天尊は太上老君の別名であるらしい。
娘娘神は道教の女神のことで、様々な女神が存在するとのこと*8
元始天尊道教最高神で、不滅の造物主とされている*9

魔王大僧正・毘沙門天王・觀㔺音大菩薩



このお塚は魔王大僧正・毘沙門天王・觀㔺音大菩薩(「㔺」は「世」の異体字)を祀る。
お塚の上部に「鞍馬山」とあるように、この3柱は鞍馬寺の御本尊(鞍馬寺の御本尊は護法魔王尊・毘沙門天王・千手観世音の3尊*10)を指していると思われる。

天國大神



ここのお塚には天國大神が祀られている。
あまり見かけない神名だが、天津神の意だろうか。

五社大神 外多数


ここには五社大神のお塚を中心として、数多くのお塚が祀られている。

五社大神


この塚台の中央には、大きな五社大神のお塚が鎮座している。
五社大神は、伏見稲荷大社本殿に祀られる5柱のことと思われる。

三德大神


このお塚には三德大神が祀られる。
三德大神は御幸辺エリアの三徳社に祀られる神で、衣食住の徳に御利益がある神だ。

姫大神・豊川大神・月星大神


このお塚は豊姫大神・豊川大神・月星大神を祀る。
姫大神は詳細不明だが、稲荷大神と習合することもある豊受姫神(伊勢神宮外宮に祀られる豊受大御神)のことかもしれない。
豊川大神は、日本三大稲荷にも数えられる愛知県の豊川稲荷に鎮守として祀られる豊川吒枳尼真天だろう(稲荷山でも豊川エリアをはじめとして各所に祀られている)。
月星大神も詳細不明だが、名前からすると天体関連の神様なのだろうか。

藤之森大神・藤吉大神


このお塚は藤之森大神と藤吉大神の2柱を祀る。
藤之森大神は藤森神社の御祭神を祀ったものかもしれない(なお荒木神社境内のお塚にも同じ神名が刻まれていた)。

正吉大神



ここには正吉大神が祀られている。
隣にある五社大神外多数が祀られる塚台と違って、巨大なこのお塚が広々と鎮座している。

瓢箪山戸川大神 外多数


ここには瓢箪山戸川大神をはじめとして多数のお塚が祀られている。

瓢箪山戸川大神・㐧畄久大神?・玉姫大神



このお塚は瓢箪山戸川大神など3柱を祀っている。
瓢箪山戸川大神は、「瓢箪」をあえて瓢箪型の像で表している辺りが当記事で先述した金森神社近くの瓢箪山戸川大神のお塚とよく似ている。
右下の神名は㐧畄久大神(それぞれ「㐧」は「第」、「畄」は「留」の略字)かと思われるが、1文字目は余り自信が無い。
左下の玉姫大神玉姫エリアの玉姫社をはじめとして稲荷山あちこちで祀られている神であり、新池堤エリアの熊鷹社向かい茶店掲示によると良縁の御利益がある神とのこと。

官幣大社正一位稻荷皇大神


ここには官幣大社正一位稻荷皇大神が祀られている。
官幣大社正一位ということは間違いなく伏見稲荷大社稲荷大神を指していると思われるが、「皇大神」との呼称は然程聞き慣れない印象がある。
もしかすると先述の通り、伊勢神宮外宮の豊受大御神稲荷大神と習合することがあるのを踏まえているのかもしれない。

毘來天王 外2柱


瓢箪山戸川大神の隣りの区画、茶店の前に毘來天王のお塚などが高く聳え立っている。

毘来天王



毘来天王というのは聞いたことのない神名だ。調べても全然情報がない。
「毘」の字があることを考えると、毘沙門天と何か関係がある可能性もある。

時来大明神


毘來天王の右側には時来大明神が祀られている。
この神についての詳細は不明だ。

御車天王


毘來天王の左側には御車天王が祀られている。
こちらも詳細不明。
1文字目は読み方が分からなかったが、『稲荷詮索誌』に御車天王とあり、「御」の崩し字であるらしいことが分かった*11



ここにも茨谷の蛙の像が置かれているが、なんと竹の鳥居まで建っている。
もしかしてちゃんと祀られているのだろうか。

地蔵尊


蛙像の左側には石仏が鎮座している。
特に由緒書等はないが、地蔵尊だろうか。

鬼法教


お塚のある区画の道を挟んだ向かいには、鬼法教(「鬼」の字は正確には「田+九+ム」の異体字)という教団の施設がある。
ここにはメインの建物と、祠堂がいくつか建っている。
なお鬼法教について詳しくはよく分からないが、現地にある看板によれば岩倉長谷町にも施設があるらしい。

鬼法教總神苑(鬼法尼寺)


ここは鬼子母尊神を祀っている。
通称は鬼法尼寺とのことだが、その名の通り尼寺なのだろうか。

最上位経大菩薩 外4柱



鬼法教總神苑正面には橋が架かっていて、その橋の横の水辺のほとりには小さな社が建っている。
勉学を見る限り、御祭神は最上位経大菩薩・妙八大明神・八大龍王辨戝天王・白龍辨戝天王・正一位稲荷大明神の5柱を祀る。

最上位経大菩薩は、日本三大稲荷に数えられる岡山県最上稲荷の御本尊の最上位経王大菩薩のことだろう。
妙八大明神は詳細不明(調べたら「妙八」という和楽器があるらしいが、関連は分からない)。
八大龍王辨戝天王や白龍辨戝天王は龍神と弁財天の習合だろうか。
正一位稲荷大明神は、言うまでもなく伏見稲荷大社の御祭神だ。

大黒天像


5柱を祀る社の横には、金色の大黒天像が祀られている。
以前までは「大黒天」の看板だけ立っていて、台座には何もない状態だったが、2020年10月に行った際にはこの大黒天像が置かれていた。
もしかすると修理中だったのだろうか。

常富稲荷大明神・妙八稲荷大明神


鬼法教總神苑の敷地内、裏山道に面した場所には稲荷社も祀られている。
御祭神は常富稲荷大明神と妙八稲荷大明神だ。
先述の社にも「妙八」を神名に冠する神が祀られていたが、関係は不明だ。

聖母観音、石祠


敷地内には金色に輝く聖母観音像と石祠も鎮座している。


聖母観音は子供の健康と知恵に御利益があるようだ。
また傍にある「お告」という掲示によれば、聖母観音は鬼子母観音ということらしい。
「南無一条妙法蓮華経」と書かれているが、もしかすると日蓮宗の流れを汲んでいるのだろうか。


聖母観音の左側には石の祠が祀られている。
特に由緒書は無く、詳細は不明だ。

出世門と地蔵堂



茨谷エリアの一番端にある「出世門」と呼ばれる上が開いたタイプの一風変わった鳥居をくぐる。


この鳥居のすぐ近くに町内安全祈願の地蔵堂らしき堂宇が鎮座している。
きちんと花がお供えされているので、町内の方が守っているのだろう。

【茨谷】
御祭神:末廣大神、阿佐田哲也大神など

間力教会へ

裏参道を下って行くと、伏見稲荷本教間力教会とその横の八霊社が見えてくる。
今回は以上。

脚注

*1:荒木神社HP「荒木神社沿革

*2:日向伝吉『稲荷詮索誌』(稲荷詮索誌発行所、1914年)茨谷平面図(国会図書館デジタルコレクションでは111コマ)

*3:伏見稲荷大社社務所『別冊 続お山のお塚 塚台配置図』(伏見稲荷大社、1966年)あらき塚台配置図、茨谷塚台配置図

*4:伏見稲荷大社附属講務本庁『神奈備 稲荷山巡拝』(伏見稲荷大社附属講務本庁、2018年)29頁

*5:村田卓夫『伏見稲荷大社 大祓御神徳記』(中村風祥堂、2018年)裏面「伏見稲荷山参拝図」、裏面塚名一覧「七祠の滝」

*6:阿佐田哲也大神祭とは」『麻雀新聞』(2017年4月18日)

*7:コトバンク太上老君」参照。

*8:コトバンク道教/道教の神々」参照。

*9:コトバンク元始天尊」参照。

*10:信楽香仁『鞍馬山』(鞍馬寺出版部、1977年再版)3頁

*11:日向、前掲書、69頁(国会図書館デジタルコレクションでは86コマ)