はじめに
前回の記事で書いた命主社から東に200mほど社家通りを進むと、真名井の清水という水が湧き出る場所がある。
真名井
真名井は古くから清水の湧き出る場所だ。
江戸時代の儒者・黒沢石斎による『懐橘談』という地誌でも、出雲大社境内の3つの井戸として、鶏卵井(御供物を炊くのに使われていたらしい。現状不明)や御手洗井(拝殿近くに現存)と並んで真名井が記されている*1。
そもそも『懐橘談』が伝えるところによれば(江戸時代に伝わっていた話としては)、天照大御神と素戔嗚尊の誓約の際に剣を濯いだ際の場所も、この真名井であるという*2。
ここから湧く水は、昭和60年(1985年)の「島根の名水百選」にも選ばれたことがある。
ただし現在では斜面の崩落防止工事の影響で、水量が激減してしまったらしい*3。
由緒書の掲示によればこの真名井には彌都波能賣神が祀られているらしい。
彌都波能賣神は『日本書紀』(第5段一書第2・第3)では埴山姫と共に軻遇突智を産んで死の床にある伊弉冉尊から生まれ、『日本書紀』(第5段一書第4)・『古事記』・『旧事紀』では軻遇突智を産んで苦しむ伊奘冉尊の尿から生まれたとされている神だ*4*5*6。
出雲大社で行われる古伝新嘗祭の歯固式においては、この真名井で採られた小石を噛み締めて長寿を祈念する*7。