燈蓮寺伽藍堂 -RISING FALCON-

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稲荷山その22:傘杉にて傘杉社や天龍社に参拝

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<2022年7月 記事分割に伴い当記事新設>

はじめに

今回は傘杉というエリアについて。
今までの稲荷山の記事はこちら

マップは以下の通り。
番号が振ってあるのは、お塚の台座の番号だ。
(※画像が粗い場合は、クリックした先で「オリジナルサイズを表示」を選ぶと大きいサイズが表示される。)

傘杉


薬力から朱の鳥居の連なった道を通り、先へ進むと傘杉のエリアとなる。
ここはメインのルートからは少し外れるためか、余り人の気配はない。

傘杉エリアには特にお滝は見当たらないが、もう少し先には昭和9年(1934年)に建てられた清明舍という禊をする人のための施設があり、清明滝が併設されている*1

但しかつては傘杉エリアにも傘杉滝があったらしく、以下のような記述を見ることができる。
伏見稲荷大社 大祓御神徳記』収録のお塚の一覧表には「[傘杉社、傘杉の滝](荒滝)」との記述がある(荒滝は傘杉滝の別名だろうか)*2
また『京都官幣大社伏見稲荷神社 御山明細図絵』表面のマップには「こうずが谷 傘杉社 傘杉滝」と描かれている*3
更に『伏見いなり大社参拝の栞』には、「神木 傘杉大神」の真下、紅葉谷を流れる川の近くに「傘杉ノ滝」の記述がある*4
そして『伏見稲荷神社御山独案内』のマップには、「笠杦明神」*5の横に「笠杦早滝」なるお滝の名前が書かれている*6
最後に『稲荷詮索誌』には、「笠杉瀧」の名が見える*7

なお先述の『京都官幣大社伏見稲荷神社 御山明細図絵』裏面のお塚一覧には「不動尊」「初音滝」の塚名も見えるので、傘杉滝以外に初音滝という滝も存在したのかもしれない*8
確かに『伏見稲荷全境内名所図絵』には、紅葉谷を流れる川の横に「初音ノ滝」と記されている(傘杉滝の記載はない)。*9
更に昭和9年(1934年)に初版が発行された北尾鐐之助著『京都散歩』においても、「北谷の方は、下から権太夫滝=(中略)=清滝=初音滝=薬力滝=(後略)」と、初音滝の存在が記述されている*10

傘杉社



このエリアの名前にもなっている傘杉社では、傘杉大神を祀る。
拝殿の後ろに杉の巨木が聳え立っていることから、恐らくこの杉の木が御神体なのだろう。
伏見稲荷と杉の関係は意外と古く、平安時代には稲荷社参拝の際は稲荷山の杉の小枝を「しるしの杉」として身に付ける風習があったそうだ*11

二本杉社



傘杉社右側には売店があるが、その売店の向かい側には二本杉大神を祀る二本杉社がある。
売店の方に尋ねた所、昔はここにその名の通り2本の杉の木が生えていたが、片方は台風、もう片方は雷で倒れてしまったらしい。

一本杉社



傘杉社の左側には一本杉大神を祀る一本杉社がある。
御簾で中はよく見えないが、ここも恐らく1本の杉の木が御神体として祀られているものと思われる。

三本杉社


一本杉社の左にあるのは、三本杉大神を祀る三本杉社だ。
ここもやはり後ろには立派な杉の木が聳えていて、御神体なのだろう。
今でも3本あるかはよく見えず分からなかったが、少なくとも祀られ始めた時には3本あったのだろう。

笠杉社



三本杉社の近くには笠杉社が鎮座している。
内部には幾つかのお塚が祀られているが、一番メインのお塚には中央に笠杉大神、左に一本杉大神、そして右には位置的に神名が判読できなかったもう1柱が祀られている。
笠杉大神は傘杉大神のことを指しているのだろう。

天龍社



ここは天龍社という社で、天龍大神を祀る。
社の傍の石柱には「伏見稲荷講社舞鶴天龍支部」の名前が見える。
由来は不明だが、舞鶴にあるらしい天龍稲荷神社関連か、もしくは舞鶴鎮守府に所属していた軽巡洋艦天龍に由来するのかもしれない。


よく見ると天龍社の手水舎は神名に因んでか、龍の口から水が出てくるようになっていた。

【傘杉】
御祭神:傘杉大神、一本杉大神、天龍大神など

今回は以上。
次回は春日峠について。

脚注

*1:伏見稲荷大社附属講務本庁『神奈備 稲荷山巡拝』(2018年)51頁

*2:村田卓夫『伏見稲荷大社 大祓御神徳記』(中村風祥堂、2018年)裏面 ※収録されているお塚一覧の作成年代は大正か昭和初期と思われる。

*3:神谷楢次郎・編『京都官幣大社伏見稲荷神社 御山明細図絵』(カミヤ印刷所、1922年)表面

*4:稲荷山青年団・編『伏見いなり大社参拝の栞』(ヨシミインサツショ、1929〜1939年頃)表面

*5:「杦」は「杉」の異体字

*6:松岡貞治郎『伏見稲荷神社御山独案内』(1913年)表面

*7:日向伝吉『稲荷詮索誌』(1914年)90~91頁(国会図書館デジタルコレクションでは97コマ目)

*8:神谷、前掲書、裏面

*9:吉田初三郎・愛信会宣伝部『伏見稲荷全境内名所図絵』(バーザイビュー社、1925年)表面

*10:北尾鐐之助『近畿景観 第三編 京都散歩』(蘭書房、1954年)364頁

*11:伏見稲荷大社社家大西氏系図による。伏見稲荷大社HP「沿革」内「しるしの杉」参照。