燈蓮寺伽藍堂 -RISING FALCON-

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稲荷山その23:春日峠のお塚と経塚趾

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<2022年7月 記事分割に伴い当記事新設>

はじめに

今回は春日峠というエリアについて。
今までの稲荷山の記事はこちら

マップは以下の通り。
番号が振ってあるのは、お塚の台座の番号だ。
(※画像が粗い場合は、クリックした先で「オリジナルサイズを表示」を選ぶと大きいサイズが表示される。)

春日峠


薬力エリアから傘杉方面へ向かわずに直進していくと、春日峠というエリアに到着する。
この辺りは紅葉谷とも呼ばれるようなので、もしかすると杉よりも紅葉の方が多く生えているのかもしれない*1

福丸大神、朝日大神、開運期米稲荷大神 外2柱


春日峠の階段を上ってすぐの所にある塚台には3基のお塚が建っている。

福丸大神


中央には福丸大神のお塚がある。
由緒等詳細は不明ながら、ここに奉納される小鳥居は全てこの福丸大神の名が書かれているので、篤く崇敬する人がいるのだろう。

朝日大神


右側は朝日大神のお塚だ。
こちらも詳細は不明。

開運期米稲荷大神・日榮天狗稲荷大神・福丸桃富稲荷大神


左側のお塚には詳細不明な3柱の神名が刻まれている。
開運期米稲荷大神は「期米」が米の取引関係の用語らしいので、その関係で祀られているのかもしれない*2
日榮天狗稲荷大神は天狗と稲荷の習合だろうか。
福丸桃富稲荷大神は先述の神名と「福丸」の字が共通しているが、関連性は不明だ。

金龍大神、金丸龍王大神、鏡山


福丸大神の塚台の右にあるこの塚台にも3基のお塚が建っている。
中央の金龍大神と右側の金丸龍王大神は名前からして共に龍神と思われる。
鏡山は「鏡山大神」を略したものと思われるが詳細不明。

末廣稲荷大神、藥力大神・黒龍大神、福金大神


金龍大神の塚台の右の塚台もまた3基のお塚が建っている。
中央は末廣稲荷大神で、これは稲荷山山頂一ノ峰上社に鎮座する末広大神、つまり大宮能売大神のことだろう。
右側のは藥力大神と黒龍大神で、前者は先日記事にした薬力社の御祭神、後者は詳細不明ながら龍神だろう。
左側の福金大神は詳細不明ながら、金運に御利益がありそうな神名だ。

日ノ車大神・豊玉大神・草ノ森大神


このお塚には日ノ車大神・豊玉大神・草ノ森大神の3柱が祀られる。
残念ながら3柱とも詳細不明だ。

天光大神


このお塚には天光大神が祀られている。
詳細は不明。

福玉大神


ここは福玉大神のお塚だ。
詳細は不明。

豊川大神・玉姫大神


このお塚は豊川大神と玉姫大神を祀る。
豊川大神は伏見豊川稲荷本宮と同様に、愛知県の豊川稲荷に祀られる豊川吒枳尼真天を祀るものと思われる。
姫大神玉姫社など稲荷山に多く祀られる神で、熊鷹社向かいの売店の貼紙によれば良縁の神であるらしい*3

岩戸大神・忠勝大神・豊岩間戸大神・金髙大神


このお塚には4柱の神が祀られている。
岩戸大神は神名からすると天照大御神に関連しそうだが詳細不明。
忠勝大神と金髙大神も詳細不明。

豊岩間戸大神は門を守る神で、下記の通り様々な書物にその名が登場する*4
まず『古事記』では天石門別神(別名として豊石窓神と櫛石窓神の名も記載)として登場、天孫降臨に付き従う*5
次に『古語拾遺』では豊磐間戸命として登場、櫛磐間戸命と共に任命岩戸開き後の天照大御神の新宮殿の門の守護に任命される*6
続いて『旧事紀』ではまず豊磐間戸命として登場し天照大御神の新宮殿の門の守護に櫛磐間戸命と共に任命、のち天石門別神(別名として豊石窓神と櫛石窓神の名も記載)として登場し天孫降臨に付き従う*7
更に『延喜式祝詞』では御門祭の祝詞において豊磐牖命として登場、櫛磐牖命と共にその名の由来が語られる*8
そして『土佐国風土記逸文』では天石帆別神(別名として天石門別命の名も記載)として登場、朝倉郷の神社の御祭神である天津羽々神の親神として名が挙げられる*9

福助大神?

現地に行った際に取ったメモには9番のお塚には福助大神が祀られていると書かれているが、どうやら写真を撮り忘れたらしい。
今度機会があれば撮って来たいと思っている。

見当たらなかったお塚

伏見稲荷大社のお塚調査記録『お山のお塚』には「竹ノ実大神」が春日峠に祀られていると書かれているが、見つけることが出来なかった*10

經塚發掘趾碑



ここ春日峠では、明治44年(1911年)に経塚(経典を埋めた塚)が発掘されており、「明治四十四年 經塚發掘趾」*11と刻まれた石柱が立てられている。
ここから発掘された出土品は、東京国立博物館が保管している*12

【春日峠】
御祭神:福丸大神、末廣稲荷大神金龍大神など
 

今回は以上。
次回は御膳谷奉拝所について。

脚注

*1:村田卓夫『伏見稲荷大社 大祓御神徳記』(中村風祥堂、2018年)裏面「伏見稲荷山参拝図」

*2:コトバンク期米」参照。

*3:この場合の良縁は恋愛だけではなく、商売相手との良縁の御利益もあるようだ。

*4:日本書紀』には記述無し。

*5:古事記』(岩波文庫、2014年第84刷)74頁

*6:斎部広成・撰『古語拾遺』(岩波文庫、1985年第1刷)22頁

*7:『旧事紀』(改造文庫、1943年)47, 69頁

*8:千田憲・編『祝詞・寿詞』(岩波文庫1984年第9刷)33頁

*9:武田祐吉・編『風土記』(岩波文庫、1997年第11刷)327頁

*10:伏見稲荷大社社務所『お山のお塚』(伏見稲荷大社、1965年)120頁

*11:「發」は上部が「业」になっていて、「殳」が「攵」になっている異体字

*12:伏見稲荷大社附属講務本庁『神奈備 稲荷山巡拝』(2018年)54頁